Japanische Klassiker mit Furigana
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ぶしゅうこうひわ
武州公秘話
谷崎 潤一郎
Lesen Sie 武州公秘話 (ぶしゅうこうひわ) von 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 107.572 Zeichen · 209 Bildschirme
云うより先に河内介の槍の穂先が「龍」の字の方へ飛んで行った。
河内介の目算は此の怪しい武士に深手を与え、進退の自由を奪った上で生け捕りにすることにあった。敵は最初、少年と見て侮ってかゝったらしかったが、鎗の穂先が数十匹の蝗の飛ぶように敏捷に、寸刻の隙間もなく迫って来るので、三四合すると早くも斬り立てられて、下算の揺ぎ絲の上からぐさと太股を突き刺された。河内介が更に右の二の腕へ一と突き加えて馬乗りになった時、
「無念!」
と云う声が下から聞えた。
「名のれ」
「いや、名のらぬ、首を斬れ」
「首は斬らぬ、生け捕りにしてやる」
武士は「生け捕り」と云う言葉を聞くと痛手に屈せず死物狂いに身を藻掻いた。河内介は、誰か続く味方はないかとその辺を見廻したけれども、眼に入るものは夥しい土煙と、その煙の向うに怒濤の如く寄せては崩れる集団の影ばかりであった。組み敷かれた武士はその間に傷いた手で河内介の上帯をしっかと捉え、左手に小刀を抜き放って所嫌わず突きにかゝった。もはや此の場合、一人と一人では生捕りにする餘裕はない。河内介は拠んどころなく刃の先を相手の咽喉にあてながら、
「望みの通りにして遣わすぞ、名を名のれ」