Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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わすれえぬひとびと

武蔵野

国木田 独歩

Lesen Sie 武蔵野 (わすれえぬひとびと) von 国木田 独歩 (くにきだどっぽ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 94.018 Zeichen · 192 Bildschirme

Aozora Bunko

昨日の事は忘れ明日の事を思わず、一日一日をみだらなる楽しみ、片時の慰みに暮らす人のさまにも似たりとは青年がこの町を評する言葉にぞある。青年別荘に住みてよりいつしか一年と半ばを過ぎて、その歳も秋の末となりぬ。ある日かれは朝早く起きいでて常のごとく犬を伴い家を出でたり。灰色の外套長く膝をおおい露を避くる長靴は膝に及び頭にはめりけん帽の縁広きを戴きぬ、顔の色今日はわけて蒼白く目は異しく光りて昨夜の眠り足らぬがごとし。

門を出ずる時、牛乳屋の童にあいぬ。かれは童の手より罎を受け取りて立ちながら飲み、半ば残して童に渡せば、童これを掌にうつしては犬に与う。青年の目は遠く大空のかなたに向かえり。空は雨雲ひくく漂い、木の葉半ば落ち失せし林は狭霧をこめたり。

青年は童に別れ、独り流れに沿うて林を出で、水車場の庭に入れば翁一人、物案じ顔に大空を仰ぎいたり。青年の入り来たれるを見て軽く礼なしつ、孫屋の縁先に置かれし煙草盆よりは煙真直にたちのぼれり。君が今朝の装衣はと翁まず口を開きてやや驚けるようなり。青年は言葉なく縁先に腰かけ、ややありて、明日は今の住家を立ち退くことに定めぬと青年は翁が問いには答えず、微笑みてその顔を守りぬ。