Japanische Klassiker mit Furigana
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わすれえぬひとびと
武蔵野
国木田 独歩
Lesen Sie 武蔵野 (わすれえぬひとびと) von 国木田 独歩 (くにきだどっぽ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 94.018 Zeichen · 192 Bildschirme
青年はかねてよくこの林の奥深く分け入り、切り株などに腰かけて日の光と風の力とに変わりゆく林の趣をめで楽しみたりければ、犬もまたこの林になずみけん、今日も先に立ちて走り入りぬ。
木の葉半ば落ちて大空の透かし見らるる林を秋霧立ちこむる朝訪わばいかに心騒がしき人もわれ知らず四辺の静けさに耳そばたつるなるべし。世の巷に駆けめぐる人は目のみを鋭く働かしめて耳を用いざるものなり。衷心騒がしき時いかで外界の物音を聞き得ん。
青年の心には深き悲しみありて霧のごとくかかれり、そは静かにして重き冷霧なり。かれは木の葉一つ落ちし音にも耳傾け、林を隔てて遠く響く轍の音、風ありとも覚えぬに私語く枯れ葉の音にも耳を澄ましぬ。山鳩一羽いずこよりともなく突然程近き梢に止まりしが急にまた飛び去りぬ。かれが耳いよいよさえて四辺いよいよ静寂なり。かれは自己が心のさまをながむるように思いもて四辺を見回しぬ。始めよりかれが恋の春霞たなびく野辺のごとかるべしとは期せざりしもまたかくまでに物さびしく物悲しきありさまになりゆくべしとは青年今さらのように感じたり。
かれに恋人あり、松本治子とて、かれが二十二の時ゆくりなく相見て間もなく相思うの人となりぬ。