Japanische Klassiker mit Furigana
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わすれえぬひとびと
武蔵野
国木田 独歩
Lesen Sie 武蔵野 (わすれえぬひとびと) von 国木田 独歩 (くにきだどっぽ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 94.018 Zeichen · 192 Bildschirme
岸に一人の美わしき少女たたずみてこなたをながむる。そのまなざしは治子に肖てさらに気高く、手に持つ小枝をもて青年を招ぐさまはこなたに舟を寄せてわれと共に恋の泉をくみたまわずや、流れ流れていずこまでゆかんとしたもうぞ、流れの末は波荒き海なるをといえるがごとし。流れの末を打ち見やれば春霞たなびきたり。かれはしばしためらいつ、言い難き悲哀胸を衝いて起こりぬ。少女は見て、その悲哀を癒す水はここにありと、小枝を流れに浸しこなたに向かいて振れば、冷たき沫飛び来たりて青年の頬を打ちたり。春の夢破れぬ。
風起こりて木の葉あらあらしく鳴りつ、梢より落つる滴りの落ち葉をうつ音雨のごとし。かれは静かに身を起こし、しばらく流れをみつめてありしが、心はなお夢路をたどれるがごとく、まなざしは遠き物をながむるさまなり。外套のポッケットに差し入れし手先に触るる物あるをかれは堅く握りて眼を閉じつ。
この時犬高くほえしかば、急ぎて路に出で口笛鋭く吹きつつ大股に歩みて野の方に向かい、おりおり空を仰ぎては眉をひそめぬ。空は雲の脚はやく、絶え間絶え間には蒼空の高く澄めるが見ゆ。
青年は絶えずポケットの内なる物を握りしめて、四辺の光景には目もくれず、野を横ぎり家路へと急ぎぬ。