Japanische Klassiker mit Furigana
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わすれえぬひとびと
武蔵野
国木田 独歩
Lesen Sie 武蔵野 (わすれえぬひとびと) von 国木田 独歩 (くにきだどっぽ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 94.018 Zeichen · 192 Bildschirme
この時われかの貧しき少女が狂犬のうわさせしといいし片目の十蔵を憶い起こしぬ。十蔵はわが振り向きしを見て急にランプの火を小さくせり。われその故を解し得ず、ただ見る六尺ばかりの大男の影おぼろなるが静かに事務室の中に消え去りしを。この十蔵が事は貴嬢も知りたもうまじ、かれの片目は奸なる妻が投げ付けし火箸の傷にて盲れ、間もなく妻は狂犬にかまれて亡せぬ。このころよりかれが挙動に怪しき節多くなり増さりぬ、元よりかれは世の常の人にはあらざりき。今は三十五歳といえど子もなく兄弟もなし。
予は闥を排して内に入りぬ。
三十余りの人々長方形の卓を囲みて居並びしがみな眼を二郎の方にのみ注げば、わが入り来たれるに心づきしは少なかりき。一座粛然たる中に二郎が声のみぞ響きたる。かれが蒼白き顔は電燈の光を受けていよいよ蒼白く貴嬢がかつて仰ぎ見て星とも愛でし眼よりは怪しき光を放てり。ただいずこともなく誇れる鷹の俤、眉宇の間に動き、一搏して南の空遠く飛ばんとするかれが離別の詞を人々は耳そばだてて聴けど、暗き穴より飛び来たりし一矢深くかれが心を貫けるを知るものなし、まして暗き穴に潜める貴嬢が白き手をや、一座の光景わが目にはげに不思議なりき。