Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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こおりぐらのにかい

氷蔵の二階

宮本 百合子

Lesen Sie 氷蔵の二階 (こおりぐらのにかい) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 18.201 Zeichen · 37 Bildschirme

Aozora Bunko

「だって――真物だろうあれは――」

「違う――ほら、あっちの――」

娘は、ふっくら膨らました前髪を硝子に押しつけ、熱心に小指で、自分の欲しい飾ピンの方をさし示した。

「あの右から一、二、三つ目の、分って? あれよ、ね?」

房は、母娘の睦じい様子と、娘の余念ない顔つきに牽きこまれ、覚えず小指の示す方角を見た。そこには、外見だけでは真物としか思えないセルロイド鼈甲(べっこう)の気取った飾ピンが、カルメンの活動にあったような形で派手に横わっていた。房も、年をいえばあどけない素振りで母にねだっている娘と大して違わなかった。行って来た処、云われたこと、自分にはこの娘のように安心して甘える母のないことなどがたたまって、房は、ざわめく夜の散歩の中で、ひどく自分を孤独に感じた。胸がきゅうと、引緊るようになった。彼女は、泣きたくなるのを堪える時の癖で、くんと顎を突出すような、負けずぎらいな顔付で大股に店を出ようとした。その途端、ひょいと一人、女が横から出て、彼女の行手を遮った。房は、感情がこみあげていたので、相手を見定める余裕なく、すりぬけて猶進もうとした。すると、前にふさがった女は、一層彼女に擦りつき、攻めるような、からかうような快活な凝視で、房の注意を促した。