Japanische Klassiker mit Furigana
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かごつるべ
江戸情話集
岡本 綺堂
Lesen Sie 江戸情話集 (かごつるべ) von 岡本 綺堂 (おかもときどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 203.779 Zeichen · 407 Bildschirme
「あいつもやっぱり可愛い奴だ」
馬鹿と叱った主人の口から、こんな情けぶかい独り言も洩れた。
十五
毎日ふり続いた雨が今日はからりと晴れると、春の光りが一度に輝いて来た。栄之丞が窓をあけて見ると、急に雪でも降ったように、近所の屋敷や寺の桜がみんな真っ白に咲き出して、いろいろの鳥の声がきこえた。彼の若い心もそそられるように浮き立って、なんとはなしに門へ出て、白い雲の流れている瑠璃色の空を仰いだ。
きょうは人通りも多かった。吉原では仲の町の桜が咲いたといううわさ話をして行くのもあった。その噂の種になっている吉原の空は薄紅く霞んで、鳶が一羽低く舞っていた。彼はうっとりとそれを見あげていると、だしぬけに声をかけられて驚いた。妹のお光が笑いながら自分の前に立っていた。
「きょうは奥のお使いで門跡さまの方まで参りましたから」と、彼女は言った。
使いに出て道草を食ってはならない。用がなければ滅多に来るなと栄之丞はふだんから言い聞かせてあるが、兄思いのお光はときどきに訪ねて来る。兄も叱りながら悪い気持ちはしなかった。
「内へあがると長くなる。門で帰れ」
二人は門口に立って、薄い煙りのあがる水田を眺めていた。