Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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しせい

消えた受賞作 直木賞編

富田 常雄

Lesen Sie 消えた受賞作 直木賞編 (しせい) von 富田 常雄 (とみたつねお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 17.806 Zeichen · 36 Bildschirme

Aozora Bunko

「奈世、昼間、お前に歌をきかせて居た男はなんと言ったな」

「青木さんで御座います」

「そうか、あの男は肺が悪いとか言って、邸へ来たのだったな」

「………」

奈世は返事をせず、静かにわしの背へ湯を流しかけた。

「あの新体詩はなんというのか」

「わかりかねます」

「あの様なものは、お前も好きか」

「いえ」

「奇妙な読み方をするの」

と、わしは湯ぶねに漬ってから言った。

奈世は白い湯巻をおろし、更衣場の竹の簀子の上に膝まずいて、片手にタオルを持ち、わしのあがるのを待って居た。

「おかしな小僧じゃ、邸に厄介になって居ながら、わしと会っても挨拶一つせぬ奴じゃ、無礼極わまる。それに肺を患っておるということだし、一時は不憫と思い、杉山の願いもあったから、住まわしてやったが、邸の為めに衛生上もよくないから、あの小僧は出て行かせなければならんの」

奈世はただ、聴いて居るだけで、頬の肉一つ動かさず、黙然とわしがあがって行くのを待って居た。

二日ほどして、杉山が来た時に、わしはその旨を言いきかせた。礼儀も知らぬ肺患の若者を何にも、好んで邸に置いてやる義理合いはない。わしは別に妬み心からそう言ったのではない。