Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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しせい

消えた受賞作 直木賞編

富田 常雄

Lesen Sie 消えた受賞作 直木賞編 (しせい) von 富田 常雄 (とみたつねお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 17.806 Zeichen · 36 Bildschirme

Aozora Bunko

起って、襖を開けると、奈世のメリンスの布団が夜明けの薄明のなかに、ひっそりと敷いてあり、枕の白い覆いが眼にしみたが、本人は居なかった。

陽が登ってから、婆やのおせきが昆布茶を天目に捧げて持って来た。

「奈世はどうした」

啜りながら訊くと、おせきはわしの前にかしこまって畳に眼を落したが、

「御前様、奈世は昨夜、身投げを致しましてございます。はい。まことに、どうも」

と、言った。

わしは一寸、呼吸が詰まり、昆布茶にむせびそうになった。

「身投げを……。なんで又」

「はい、私にも、とんと、事情がわかりかねますでございますが、園丁小屋の青木の坊ちゃんも一緒でございました」

「心中か」

わしの声が大きかったらしく、おせきは上眼でちらりとわしを見て、しおじおとうな垂れた。

「はい」

「昨夜のことだな」

「はい、抱合心中で御座います。今朝、照ヶ崎の海岸へ引き揚げられまして。なんとも、はや……はい。ただ今、雨戸をお開けいたします」

そう言っておせきは逃げる様に起って雨戸を繰り始めた。まぶしい程の朝の光が居間に拡がって来たが、わしの心には何にか大きな虚な空洞があいて、飲んでいる昆布茶がその空洞へ流れ落ちて行くような感じであった。