Japanische Klassiker mit Furigana
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りんらくのこうじょのおぼえがき
淪落の皇女の覚書
久生 十蘭
Lesen Sie 淪落の皇女の覚書 (りんらくのこうじょのおぼえがき) von 久生 十蘭 (ひさおじゅうらん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 28.649 Zeichen · 56 Bildschirme
ときどき父の眼が赤くなっていることがありました。寝不足のせいか、泣いたのか、それはあたしにもわかりません。父の顔はいつも平静で、冷たいくらいに見えるのですけれども、一人で部屋に閉じこもっているときは、背中を丸く曲げ、両手で顔を蔽って長い間もの思いに沈みこんでいました。唇の端が痙攣するときは心の中にたいへんな嵐が吹き荒れているのですが、そんなときでも顔はいつものとおり静かでした。
父はあるときフレデリック伯にいいました。
「自由のないいまの生活を辛いと思わない。私の過去の日常はすべて囚人の生活だったからね。だがこの土地の寒さと孤独にはまったくやられる。陽の光と花の色……それもほんのすこし。家族といっしょにクリミヤで住むことを許してくれるなら、ロシア共和国の善良な一市民として、幸福に、静かに暮すのだが」
母は部屋にとじこもってツァルスコイエ・セロから持ってきた宗教書を読み、何時間も何時間も法悦に浸っていました。そのくせ心には平和もなく、忍従ということもなく、すべてが怒りの種、傷つけられる鋭い刺なので、母のいうことといえば、いつもよかったむかしの思い出ばかり。