Japanische Klassiker mit Furigana
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しぶやけのしそ
渋谷家の始祖
宮本 百合子
Lesen Sie 渋谷家の始祖 (しぶやけのしそ) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 68.023 Zeichen · 133 Bildschirme
感情に激した正隆は、大きな打撃を受けた瞬間から、あらゆる冷静さ、実際的方針というべきものを失ってしまった。
役所は、ひどい、不正である。自分のすべき仕事と、繋ぐべき希望は、もうない、なくなってしまった。と思うと直ぐ、辞職願を書いて突き出した正隆は、自分に与えられた苦痛を、ただありのまま、そのままに受取って全身で苦しんだ。その苦しみは大きい。深い。そして、魂の根にまで毒を注射するものであったろう。けれども、正隆は、それほどの苦痛に、解剖のただ一刀をも加えなかった。
自分は苦しい。何故苦しいのか、彼等が不正だからなのではないか、彼等の不公平が自分を虐げるから、自分は辛いのではないか、この点から更に一歩を進めて、それならば、彼等の不公平と、不正とはどんな原因と、内容を持っているだろうというところまで、彼の思索を進める力を、彼は生れながらにして持っていなかったのである。
それ故、この場合、正隆にとって、母よりも、妻よりも、よき一人の友が生活の活力素になる筈であった。一人のよい友人が、彼の総ての経験と、周囲の不幸な誤謬とを、些細に解剖し、解体して、あらゆる不幸な偶然を取りのけた運命の大系を暗示しさえすれば、正隆はどうにか、生活の明るみの上に息を吐けたかも知れなかったのである。