Japanische Klassiker mit Furigana
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しぶやけのしそ
渋谷家の始祖
宮本 百合子
Lesen Sie 渋谷家の始祖 (しぶやけのしそ) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 68.023 Zeichen · 133 Bildschirme
然し、どこにもそんな友人は見つからなかった。平常から、群を離れて強者のようにふるまう正隆は、自分の馬鹿を披瀝する者を持たなかった。人間がどこかに持つ共通の馬鹿を、いたわり合う人を持たなかった。従って、多くの同僚は、その翌日出された辞職届のことを知って、彼の物質的安定と、そのために許される我儘とを羨望したに止まっていた。或る者は、正隆の所謂お坊ちゃんを、世にも比類のない仕合わせとして、彼を祝福さえしたのである。
この物質的に、彼があまり安穏であったということは、一面に正隆の身を自由に解放していると共に、他の一面では、彼をただ瞬間の激情に己を委せる弱者にしていた。
若し、正隆が、役所から離れるということが、何等かの点で生活の不安を齎すものであったら、これほど、彼は無反省で、或る環境から自分を引離すことは出来ないだろう。出来なければ、従って、何等かの思考が費される。そこで彼は、自分の苦痛、その苦痛を齎した原因、等に就て、何か掴むことが出来たかも知れない。けれども、役所で受ける俸給などというものは、生活の大道に何の差も起さない境遇にある正隆は、単に役所を雑作なく罷(や)めたということと共に、同様の無省察で、自分の疑惑を肯定したことに、一層の不幸を持っているのである。