Japanische Klassiker mit Furigana
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おんせんだより
温泉だより
Lesen Sie 温泉だより (おんせんだより) von Akutagawa Ryūnosuke (芥川 竜之介) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 6.095 Zeichen · 13 Bildschirme
実際またそうでもしなければ、残金二百円云々は空文に了るほかはなかったのでしょう、何しろ半之丞は妻子は勿論、親戚さえ一人もなかったのですから。
当時の三百円は大金だったでしょう。少くとも田舎大工の半之丞には大金だったのに違いありません。半之丞はこの金を握るが早いか、腕時計を買ったり、背広を拵えたり、「青ペン」のお松と「お」の字町へ行ったり、たちまち豪奢を極め出しました。「青ペン」と言うのは亜鉛屋根に青ペンキを塗った達磨茶屋です。当時は今ほど東京風にならず、軒には糸瓜なども下っていたそうですから、女も皆田舎じみていたことでしょう。が、お松は「青ペン」でもとにかく第一の美人になっていました。もっともどのくらいの美人だったか、それはわたしにはわかりません。ただ鮨屋に鰻屋を兼ねた「お」の字亭のお上の話によれば、色の浅黒い、髪の毛の縮れた、小がらな女だったと言うことです。
わたしはこの婆さんにいろいろの話を聞かせて貰いました。就中妙に気の毒だったのはいつも蜜柑を食っていなければ手紙一本書けぬと言う蜜柑中毒の客の話です。しかしこれはまたいつか報告する機会を待つことにしましょう。