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Japanische Klassiker mit Furigana

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しょうねん

潤一郎ラビリンスI――初期短編集

谷崎 潤一郎

Lesen Sie 潤一郎ラビリンスI――初期短編集 (しょうねん) von 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 41.319 Zeichen · 84 Bildschirme

Aozora Bunko

「光ちゃん」

と呼んで見ようとしても死滅したような四辺の寂寞が唇を壓し、舌を強張らせて声を発する勇気もない。始めは気が付かなかったが、部屋の左手の隅に次の間へ通ずる出口があって、重い緞子の帷が深い皺を畳み、ナイヤガラの瀑布を想わせるようにどさりと垂れ下って居る。其れを排して、隣室の模様を覗いて見ようとしたが、帷の向うが真っ暗なので手が竦むようになる。其の時不意に煖炉棚の上の置時計がジーと蝉のように呟いたかと思うと、忽ち鏗然と鳴ってキンコンケンと奇妙な音楽を奏で始めた。これを合図に光子が出て来るのではあるまいかと帷の方を一心に視詰めて居たが、二三分の間に音楽も止んで了い、部屋は再び元の静粛に復って、緞子の皺は一と筋も揺がず、寂然と垂れ下がって居る。

ぼんやりと立って居る私の瞳は、左側の壁間に掛けられた油絵の肖像畫の上に落ちて、うか/\と其の額の前まで歩み寄り、丁度ランプの影で薄暗くなって居る西洋の乙女の半身像を見上げた。厚い金の額縁で、長方形に劃られた畫面の中に、重い暗い茶褐色の空気が漂うて、纔かに胸をお納戸色の衣に蔽い、裸体の儘の肩と腕とに金や珠玉の鐶を飾った下げ髪の女が、夢みるように黒眼がちの瞳をぱッちりと開いて前方を視つめて居る。