Japanische Klassiker mit Furigana
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こぞうのゆめ
潤一郎ラビリンスV――少年の王国
谷崎 潤一郎
Lesen Sie 潤一郎ラビリンスV――少年の王国 (こぞうのゆめ) von 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 71.989 Zeichen · 144 Bildschirme
今しがた、店の前を俥で通った新橋の藝者の、白粉の濃い長い襟足をくっきりと日に光らせながら、女王のように気取って行った後ろ姿が、いまだに己の眼の前にちらついて居る。
今時分の陽気になると、此の世はやっぱり美しいと云うような気がする。その頭の中に浮ぶ妄想のようなものが、此の世の中にも有り得るかも知れない。
明日はどうしても浅草へ行きたい。今日の新聞の広告に出て居た、「露国美人メリー嬢の魔術」と云うのを見に行きたい。幸い明日は十四日で、上野の廣小路までカケ取りに行く用があるから、なんとか時間を工夫してやろう。
今日はお嬢さんが上野の音楽会へ出かけて、一日お留守だった。お嬢さんが居ないと、己は非常に淋しい。まるで家の中が落寞とする。池田屋にお嬢さんさえ居なかったら、己はもっと悪い事をして、追い出されても構わないのだが、………
五月十四日。晴。
今日は何と云う不思議な日だったろう。何と云う愉快な、そうして怪しい日だったろう。こうやって日記を附けながらも、己は猶名状し難い胸騒ぎを感じて居る。今日の出来事は、たしかに己が生れてから未だ嘗て経験した事のない、奇しく恐ろしい快感を己に味わせてくれた。