Japanische Klassiker mit Furigana
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こぞうのゆめ
潤一郎ラビリンスV――少年の王国
谷崎 潤一郎
Lesen Sie 潤一郎ラビリンスV――少年の王国 (こぞうのゆめ) von 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 71.989 Zeichen · 144 Bildschirme
「私あなたに此の金を上げる。」
と、黒ん坊はズボンのポッケットから二十銭銀貨を出しながら、己の耳元へ口をつけて唆かすように云った。
「あなた、もし催眠術にかゝらなくっても、どうか寝たふりをして下さい。その代りに此の金をあなたに上げる。いゝですか、分りましたか。」
「いらない、そんなものはいらない。」
こう口へ出して云ったかどうだか、兎に角己は首を振って、金を断る意志を示した。
「なぜいらない?」
こう云った時の黒ん坊の眼には、正視するに堪えぬ程猛悪な、残忍な表情が漲って居た。己は白刃を胸に擬せられたと同様の脅喝に襲われた事を感じた。
「あなた馬鹿です。あの子供たちは毎日舞台へ上って、私から金を貰います。あなたは今日が始めてゞす。しかし此れから毎日来れば、いつでも二十銭儲かります。あなたはなぜいやですか。ちっともいやな事はありません。」
「いやではない。」
と、己は譫語のように云った。そうして彼が無理に握らせた二十銭銀貨を大人しく懐の蟇口の中へ入れた。
「外の子供達がよく知って居ます、あなたは何でも、あの子供達のする通りにして居ればいゝのです。」
彼の口吻は、二十銭の報酬に対して、さながら己の命までも要求するが如くであった。