Japanische Klassiker mit Furigana
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こぞうのゆめ
潤一郎ラビリンスV――少年の王国
谷崎 潤一郎
Lesen Sie 潤一郎ラビリンスV――少年の王国 (こぞうのゆめ) von 谷崎 潤一郎 (たにざきじゅんいちろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 71.989 Zeichen · 144 Bildschirme
貝島が敗残の一家を率いて、始めて其処へ移り住んだのは、或る年の五月の上旬で、その町を囲繞する自然の風物が、一年中で最も美しい、最も光り輝やかしい、初夏の日の一日であった。長い間神田の猿楽町のむさくろしい裏長屋に住み馴れた一家の者は、重暗く息苦しい穴の奥から、急にカラリとした青空の下へ運び出されたような気がして、ほっと欣びの溜息をついた。子供たちは、毎日城跡の公園の芝生の上や、T河の堤防のこんもりとした桜の葉がくれや、満開の藤の花が房々と垂れ下ったA庭園の池の汀などへ行って、嬉々として遊んだ。貝島も、貝島の妻も、ことし六十いくつになる老母も、俄かに放たれたような気楽さを覚えて、年に一遍、亡父の墓参に出かけるより外は、東京と云うところを恋しいともなつかしいとも思いはしなかった。
彼が教職に就いたD小学校は、M市の北の町はずれにあって、運動場の後ろの方には例の桑畑が波打って居た。彼は日々、教室の窓から晴れやかな田園の景色を望み、遠く、紫色に霞んで居るA山の山の襞に見惚れながら、伸び/\とした心持で生徒たちを教えて居た。赴任した年に受け持ったのが男子部の尋常三年級で、それが四年級になり、五年級に進むまで、足かけ三年の間、彼はずっと其の級を担当して居た。