Japanische Klassiker mit Furigana
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みおつくし
澪標・落日の光景
外村 繁
Lesen Sie 澪標・落日の光景 (みおつくし) von 外村 繁 (とのむらしげる) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 130.889 Zeichen · 268 Bildschirme
私は本気で心配していたわけではない。当然のことのように聞き流す。
「やはりノイローゼでしたのね。何だか、急にすうっとしたようだわ」
羽田医院を出ると、妻は私にそう言った。
五十六になった。その十一月、私は「上顎腫瘍」という病気で、東京医科歯科大学の病院に入院、放射線の深部治療を受ける。癌の疑いがあるらしい。しかし私には自覚症状は全くない。「まさか」という気持の方が大きい。それより病院に入院するのは初めての経験である。ベッドも困る。酒が飲めないのも困る。更に酒気なくて、一人で夜を過すのが、何よりも苦痛である。
しかし妻は務めて愁歎の表情は見せようとしない。朝夕、妻は勤務の前後に決って私の前に姿を見せる。その態度はむしろ颯爽としている。私は妻の健気さに、却って病気の重大さが感知されたが、同時に不思議な決心が湧く。献身的ともいえる、妻の愛情に応えるために、私は一切の自己を、或は自己の一切の計量を放擲しようと試る。病気は医者任せ、後は運命に任せるより他はないではないか。
放射線の照射の回数が重なるにつれ、私の顔面は徐徐に変色して行く。更に回数を重ねると、私の鼻下と顎の半白の髭がすっかり脱毛する。