Japanische Klassiker mit Furigana
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ぼくとうきだん
濹東綺譚
永井 荷風
Lesen Sie 濹東綺譚 (ぼくとうきだん) von 永井 荷風 (ながいかふう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 57.666 Zeichen · 114 Bildschirme
わたくしはお雪さんが飯櫃を抱きかかえるようにして飯をよそい、さらさら音を立てて茶漬を掻込む姿を、あまり明くない電燈の光と、絶えざる溝蚊の声の中にじっと眺めやる時、青春のころ狎れしんだ女達の姿やその住居のさまをありありと目の前に思浮べる。わたくしのものばかりでない。友達の女の事までが思出されて来るのである。そのころには男を「彼氏」といい、女を「彼女」とよび、二人の侘住居を「愛の巣」などと云う言葉はまだ作り出されていなかった。馴染の女は「君」でも、「あんた」でもなく、ただ「お前」といえばよかった。亭主は女房を「おッかア」女房は亭主を「ちゃん」と呼ぶものもあった。
溝の蚊の唸る声は今日に在っても隅田川を東に渡って行けば、どうやら三十年前のむかしと変りなく、場末の町のわびしさを歌っているのに、東京の言葉はこの十年の間に変れば実に変ったものである。
そのあたり片づけて吊る蚊帳哉
さらぬだに暑くるしきを木綿蚊帳
家中は秋の西日や溝のふち
わび住みや団扇も折れて秋暑し
蚊帳の穴むすびむすびて九月哉
屑籠の中からも出て鳴く蚊かな
残る蚊をかぞへる壁や雨のしみ
この蚊帳も酒とやならむ暮の秋