Japanische Klassiker mit Furigana
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ぼくとうきだん
濹東綺譚
永井 荷風
Lesen Sie 濹東綺譚 (ぼくとうきだん) von 永井 荷風 (ながいかふう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 57.666 Zeichen · 114 Bildschirme
然るに今、わたくしは橋の欄干に凭れ、下流の公園から音頭踊の音楽と歌声との響いて来るのを聞きながら、先程お雪が二階の窓にもたれて「三月になるわネエ。」といった時の語調や様子を思返すと、すみ子と種田との情交は決して不自然ではない。作者が都合の好いように作り出した脚色として拆けるにも及ばない。最初の立案を中途で変える方が却てよからぬ結果を齎すかも知れないと云う心持にもなって来る。
雷門から円タクを傭って家に帰ると、いつものように顔を洗い髪を掻直した後、すぐさま硯の傍の香炉に香を焚いた。そして中絶した草稿の末節をよみ返して見る。
「あすこに見えるのは、あれは何だ。工場か。」
「瓦斯会社か何かだわ。あの辺はむかし景色のいいところだったんですってね。小説でよんだわ。」
「歩いて見ようか。まだそんなに晩かアない。」
「向へわたると、すぐ交番があってよ。」
「そうか。それじゃ後へ戻ろう。まるで、悪い事をして世を忍んでいるようだ。」
「あなた。大きな声……およしなさい。」
「…………」
「どんな人が聞いていないとも限らないし……。」
「そうだね。然し世を忍んで暮すのは、初めて経験したんだが、何ともいえない、何となく忘れられない心持がするもんだね。