Japanische Klassiker mit Furigana
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ぼくとうきだん
濹東綺譚
永井 荷風
Lesen Sie 濹東綺譚 (ぼくとうきだん) von 永井 荷風 (ながいかふう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 57.666 Zeichen · 114 Bildschirme
その夜、お雪が窓口で言った言葉から、わたくしの切ない心持はいよいよ切なくなった。今はこれを避けるためには、重ねてその顔を見ないに越したことはない。まだ、今の中ならば、それほど深い悲しみと失望とをお雪の胸に与えずとも済むであろう。お雪はまだ其本名をも其生立をも、問われないままに、打明る機会に遇わなかった。今夜あたりがそれとなく別れを告げる瀬戸際で、もし之を越したなら、取返しのつかない悲しみを見なければなるまいと云うような心持が、夜のふけかけるにつれて、わけもなく激しくなって来る。
物に追われるような此心持は、折から急に吹出した風が表通から路地に流れ込み、あち等こち等へ突当った末、小さな窓から家の内まで入って来て、鈴のついた納簾の紐をゆする。其音につれて一しお深くなったように思われた。其音は風鈴売が子窓の外を通る時ともちがって、此別天地より外には決して聞かれないものであろう。夏の末から秋になっても、打続く毎夜のあつさに今まで全く気のつかなかっただけ、その響は秋の夜もいよいよまったくの夜長らしく深けそめて来た事を、しみじみと思い知らせるのである。気のせいか通る人の跫音も静に冴え、そこ等の窓でくしゃみをする女の声も聞える。