Japanische Klassiker mit Furigana
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かせいのうんが
火星の運河
江戸川 乱歩
Lesen Sie 火星の運河 (かせいのうんが) von 江戸川 乱歩 (えどがわらんぽ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 4.715 Zeichen · 10 Bildschirme
或は又、不気味にも、森全体がめしいたる魑魅魍魎に充ち満ちているが如くにも、思われないではなかった。くちなわの様な山蛭が、まっくらな天井から、雨垂れを為して、私の襟くびに注いでいるのが想像された。私の眼界には一物の動くものとてなかったけれど、背後には、くらげの如きあやしの生きものが、ウヨウヨと身をすり合せて、声なき笑いを合唱しているのかも知れなかった。
でも、暗闇と、暗闇の中に住むものとが、私を怖がらせたのは云うまでもないけれど、それらにもまして、いつもながらこの森の無限が、奥底の知れぬ恐怖を以て、私に迫った。それは、生れ出たばかりの嬰児が、広々とした空間に畏怖して、手足をちぢめ、恐れ戦くが如き感じであった。
私は「母さん、怖いよう」と、叫びそうになるのを、やっとこらえながら、一刻も早く、暗の世界を逃れ出そうと、あがいた。
併し、あがけばあがく程、森の下闇は、益々暗さをまして行った。何年の間、或は何十年の間、私はそこを歩き続けたことであろう! そこには時というものがなかった。日暮れも夜明けもなかった。歩き始めたのが昨日であったか、何十年の昔であったか、それさえ曖昧な感じであった。