Japanische Klassiker mit Furigana
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かせいのうんが
火星の運河
江戸川 乱歩
Lesen Sie 火星の運河 (かせいのうんが) von 江戸川 乱歩 (えどがわらんぽ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 4.715 Zeichen · 10 Bildschirme
私は、ふと未来永劫この森の中に、大きな大きな円を描いて歩きつづけているのではないかと疑い始めた。外界の何物よりも私自身の歩幅の不確実が恐しかった。私は嘗つて、右足と左足との歩きぐせにたった一吋の相違があった為に、沙漠の中を円を描いて歩き続けた旅人の話を聞いていた。沙漠には雲がはれて、日も出よう、星もまたたこう。併し、暗闇の森の中には、いつまで待っても、何の目印も現れては呉れないのだ。世にためしなき恐れであった。私はその時の、心の髄からの戦きを、何と形容すればよいのであろう。
私は生れてから、この同じ恐れを、幾度と知れず味った。併し、一度ごとに、いい知れぬ恐怖の念は、そして、それに伴うあるとしもなき懐しさは、共に増しこそすれ、決して減じはしなかった。その様に度々のことながら、どの場合にも、不思議なことには、いつどこから森に入って、いつ又どこから森を抜け出すことが出来たのやら、少しも記憶していなかった。一度ずつ、全く新たなる恐怖が私の魂を圧し縮めた。
巨大なる死の薄暗を、豆つぶの様な私という人間が、息を切り汗を流して、いつまでも、いつまでも歩いていた。