Japanische Klassiker mit Furigana
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むだい(いち)
無題(一)
宮本 百合子
Lesen Sie 無題(一) (むだい(いち)) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N3. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N3 · Mittel · moderne Kanji und Kana · 20.502 Zeichen · 41 Bildschirme
旅人はまだ迷って居ます。暗い森から暗い森の中へと、雪は一寸もやまず木々の梢と落葉のつもった地面とをせっせとお化粧をして居ます。まだ十六にみたない若い旅人は母の最後にくれたキッスと村はずれまで送って呉れた小さい小鳥のように美くしい女の笑顔を思い出して身ぶるいをしながら歩いて居ます。暗い暗い森は中々つきそうにもありませんでした。遠く遠くつづいて「どっちが西でどっちが東かしら、私はどっちに行ったら彼の美くしい国に行かれるのかしら」。旅人は八十になる白い頭巾をかぶって大キイ目鏡をかけた祖母に教えられてその住む村から七里西にある水の青い山の紫な乙女の頬の美くしい国へ歌枕さぐりに行くんです。細い小さい雪はかたまって大きい形になって落ちて来ます。
みどり色のこいマントの上、赤い帽子の上とそしてやわらかで赤い長靴の上をポトリポトリとしめして行きます。頬はさむい風に吹かれて光をもって赤く、黄金色の毛は赤い帽子をもれてゆるく波をうってかたにかかって居ます。バラを一ひらつんで置いたような唇はキッとむすばれて時々かすかに歯をあらわして雪の詩をうたって居ます。若い旅人は若々しい情のある血のような詩をうたう人です。