Japanische Klassiker mit Furigana
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ちちのかたみ
父の形見
豊島 与志雄
Lesen Sie 父の形見 (ちちのかたみ) von 豊島 与志雄 (とよしまよしお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 6.879 Zeichen · 14 Bildschirme
知らせを受けて、彼がかけつけた時には、死体はもう綺麗に始末してあった。彼はその顔の白布をとって眺めた。弾は口腔内の上顎から後頭部にはいって、一発で即死とのことだった。まったく生きてた通りの顔付で、死相というものが殆んど見られなかった。眉根によってる深い皺と、つぶった眼瞼のまるい脹らみとがありありと彼の生前の面影を伝え、ただ、口から顔へかけて、ひどくしぼんで淋しかった。
その顔を、君の父は身動きもせず石のようになって、二三分間も凝視していた。死人によりも彼の態度の方に、より厳粛なものがあった。それから彼は死顔に白布をかけて、ふいに、滑稽なほど丁寧に上半身を屈めた。それから全く口を噤み、誰にも挨拶もせず、様子も尋ねず、控室の片隅に蹲っていた。
矩子は後れてきた。死体の側で、さめざめと泣いたらしかった。自殺とのことを聞いて、全身を震わして泣いたが、中途で泣きやんで、幻を追うような様子に変った。泣きばれのした眼が乾き、額も頬も冷く蒼ざめ、その顔全体がひどく美しかった。君の父はその美しい顔にじっと眼をとめて、かすかな微笑の影を頬に浮べ、同時に眼の中に涙をためた。