Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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きつね

狐

永井 荷風

Lesen Sie 狐 (きつね) von 永井 荷風 (ながいかふう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 9.770 Zeichen · 20 Bildschirme

Aozora Bunko

そして、ついぞ父親の行かれた事のない勝手口の方に、父の太い皺枯れた声がする。田崎が何か頻りに饒舌り立てて居る。毎朝近所から通って来る車夫喜助の声もする。私は乳母が衣服を着換えさせようとするのも聞かず、人々の声する方に馳け付けたが、上框に懐手して後向きに立って居られる母親の姿を見ると、私は何がなしに悲しい、嬉しい気がして、柔い其の袖にしがみつきながら泣いた。

「泣蟲ッ、朝腹から何んだ。」と父は鋭い叱の一声。然し、母上は懐の片手を抜いて、静に私の頭を撫で、

「また、狐が出て来ました。宗ちゃんの大好きなを喰べてしまったんですって。恐いじゃありませんか。おとなしくなさい。」

雪は紛々として勝手口から吹き込む。人達の下駄の歯についた雪の塊が半ば解けて、土間の上は早くも泥濘になって居た。御飯焚のお悦、新しく来た仲働、小間使、私の乳母、一同は、殿様が時ならぬ勝手口にお出での事とて戦々恟々として、寒さに顫えながら、台所の板の間に造り付けたように坐って居た。

父は田崎が揃えて出す足駄をはき、車夫喜助の差翳す唐傘を取り、勝手口の外、井戸端の傍なる小屋を巡見にと出掛ける。