Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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いそべのわかば

磯部の若葉

岡本 綺堂

Lesen Sie 磯部の若葉 (いそべのわかば) von 岡本 綺堂 (おかもときどう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 3.709 Zeichen · 8 Bildschirme

Aozora Bunko

今日もまた無数の小猫の毛を吹いたような細かい雨が、磯部の若葉を音もなしに湿らしている。家々の湯の烟も低く迷っている。疲れた人のような五月の空は、時々に薄く眼をあいて夏らしい光を微かに洩すかと思うと、またすぐに睡むそうにどんよりと暗くなる。が勇ましく歌っても、雀がやかましく囀っても、上州の空は容易に夢から醒めそうもない。

「どうも困ったお天気でございます。」

人の顔さえ見れば先ずこういうのが此頃の挨拶になってしまった。廊下や風呂場で出逢う逗留の客も、三度の膳を運んで来る旅館の女中たちも、毎日この同じ挨拶を繰返している。私も無論その一人である。東京から一つの仕事を抱えて来て、ここで毎日原稿紙にペンを走らしている私は、他の湯治客ほどに雨の日のつれづれに苦まないのであるが、それでも人の口真似をして「どうも困ります」などといっていた。実際、湯治とか保養とかいう人たちは別問題として、上州のここらは今が一年中で最も忙がしい養蚕季節で、なるべく湿れた桑の葉をお蚕様に食わせたくないと念じている。それを考えると「どうも困ります」も決して通り一遍の挨拶ではない。ここらの村や町の人たちに取っては重大の意味を有っていることになる。