Japanische Klassiker mit Furigana
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きんしゅのこころ
禁酒の心
Lesen Sie 禁酒の心 (きんしゅのこころ) von Dazai Osamu (太宰 治) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 3.572 Zeichen · 8 Bildschirme
おれは今迄、鯛の塩焼なんて、たべた事がない。けれども、いまは大いに喜んだふりをしなければならぬ。つらいところだ、畜生め! 「鯛の塩焼と聞いちゃ、たまらねえや。」実際、たまらないのである。
他のお客も、ここは負けてはならぬところだ。われもわれもと、その一皿二円の鯛の塩焼を注文する。これで、とにかく一本は飲める。けれども、おやじは無慈悲である。しわがれたる声をして、
「豚の煮込みもあるよ。」
「なに、豚の煮込み?」老紳士は莞爾と笑って、「待っていました。」と言う。けれども内心は閉口している。老紳士は歯をわるくしているので、豚の肉はてんで噛めないのである。
「次は豚の煮込みと来たか。わるくないなあ。おやじ、話せるぞ。」などと全く見え透いた愚かなお世辞を言いながら、負けじ劣らじと他のお客も、その一皿二円のあやしげな煮込みを注文する。けれども、この辺で懐中心細くなり、落伍する者もある。
「ぼく、豚の煮込み、いらない。」と全く意気悄沈して、六号活字ほどの小さい声で言って、立ち上り、「いくら?」という。
他のお客は、このあわれなる敗北者の退陣を目送し、ばかな優越感でぞくぞくして来るらしく、