Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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しほんたいへいき

私本太平記

吉川 英治

Lesen Sie 私本太平記 (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 126.598 Zeichen · 254 Bildschirme

Aozora Bunko

菊王は、それを持って、再び、隣の苫を訪れた。そして、すぐ戻ったが、俊基へは「……泣いてよろこんでおりました」と告げたのみで、多くも語らず、なにか考え顔に落ちこんでいた。

「菊王、なぜ沈んでおる」

「いえ、沈んでなどおりませぬが、どう考えても思い泛かんでまいりません」

「何をば?」

「いま、近々と見て来た舟芸人の妻ですが」

「それが何としたのか」

「たしかに、どこかで見たことのある女房なのです。けれど、はっと思ったのは刹那で、また、そうではなかったのかと、迷われもして来ますし」

「つまらぬ迷いを」

そこへ、彼女の良人が、息もせかせか岸の上に姿をみせた。そして隣舟へ帰るやいな、何度も礼をくり返した。

「や。早かったな。赤子の葛の粉とかは、手に入ったか」

「おかげで」

と、男はふたたび、ていねいに頭を下げた。

大道芸人もおなじ舟芸人といえ、やはり身にそなわる芸味がにじみ出るものだろうか。せまい舟べりで小腰をかがめた姿の線がいかにもいい。この辺の散所民と同視していただけにふと目をひかれた。

はてな?

菊王はまたしても、男の病める妻を思い合わせた。が、やはり思い出せなかった。