Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記 (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 126.598 Zeichen · 254 Bildschirme
「雨露次?」
「はい」
「杉ノ本は、生地の名か」
「さようで」
「すると、伊賀だの。伊賀の一ノ宮には、古くから山田申楽の座がある由。そちも山田申楽のながれを汲む者か」
「め、めっそうもない」
雨露次は、俊基の知識で、そこまで探り当てられると、ひどくあわてて。
「ただ今も申したような、身過ぎ世過ぎの大道芸、山田申楽の端くれにも連なるほどな者ではございませぬ」
また菊王が、そのそばから、
「して、お内儀の名は?」
と、彼の空虚をついた。
妻の名は、秘す気もないのか、または急に嘘も出なかったのか、ふだん呼びなれているままに、
「家内は、卯木と申しまする」
と、彼は答えた。
「卯木どのか」
なんども、菊王は呟いて。
「……卯木どの。それも、どこかで聞いたような気はするが? ……さて、これ以上根ほり葉ほりは、ごめいわくであろ。それだけ伺っておけば、またいつか、再会の縁にめぐまれぬこともあるまいし。――では、雨露次どのとやら、ご息災に」
「ありがとう存じまする。御縁もあらばまた……。ごきげんよう」
雨露次は、もとの道の方へ、独りすたすた引っ返して行った。
彼と別れて、主従が、岩室を越え、次の鉢ヶ峰寺の一堂に眠ったのは、明け方ぢかい頃だった。