Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記 (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 126.598 Zeichen · 254 Bildschirme
「よんでくれい」
社家の奥でも、賑やかな人声がしていた。宿泊中の山田申楽の一座だ。――その人々の話し相手にでもなっていたのだろう。楠木家の家職(家老)で、よく人を笑わせたりするので、誰にも親しまれている恩智左近が、赤ら顔に、雪をとまらせたような白い眉を、きょときょと動かしながら、
「ほう、御舎弟さまには、そんな所に」
と、正季の腰かけていた石段口の大きな松の根かたへ、せかせかとやって来た。
「爺。……困ったことに相なったぞ」
「とは、何事で」
「延期だ。あすの雨乞いは」
「怪態なことを仰せられますな?」
左近は、白い眉に皺をよせた。葡萄の果肉みたいな眸でじっと見られると、正季には、ちと恐かった。腕白時代から、家来ではあっても、恐い爺と、烙きつけられていたからだ。
「とにかく、そちは兄上から、雨乞い奉行をいいつかっておる者ゆえ、そのつもりでいるがいい」
「では、日延べして、神事はいつから御奉仕しますな?」
「そこは、わからぬ」
「こは、面妖な」
「爺。もっと寄れい。ちと、秘策だ」
正季は、声を落した。――そして、中院ノ俊秀と天見ノ五郎を使いとして、加賀田の毛利時親が、わざわざ忠言してよこした計を、ざっと伝えた。