Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(三)
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記(三) (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 222.108 Zeichen · 446 Bildschirme
それは日輪の下に一つの花芯をつつんで生命を愛しみあう花弁の睦みと違わない。
が、つぶさに見れば、彼女たちの小袿衣の袖口にも、帝のお襟にも、白い獄舎虱が這い出て共に太陽を恋うていたかもしれない。――が、獄もすでに百余日だ。瞑想のおん瞼はそんな虫どもの蠢動も超然と観ておわしたことだろうか。それとも、生きとし生ける物の中でいちばん尊いものは何であるかなどを、今ぞ沁々、お心に享けておられたことでもあるか。
ところが。人間はなぜだろう。
こんな見てならぬものをも、密かに覗き見する酷い無情な隠し穴が、板壁の思わぬ所に設けられてあったのだ。
「…………」
長井縫之助秀正は、さっきからそこの暗い所の板壁に外から顔を貼りつけていた。
内では分らぬ節穴ほどな覗き口が出来ていて、顔を離せばすぐ閉まる。こんな仕掛けは獄舎には例外なことでもない。
しかし縫之助秀正がいま見たものは、昨日までは至尊と仰がれた君と三人の妃が、わずかに射し入る日光の下に相擁して八寒の獄をいたわり合うている姿だった。
――彼はなにか地上では見られなかった深海の魚巣でも透かし見たようにその片目皺と、足のしびれをも忘れていた。