Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(三)
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記(三) (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 222.108 Zeichen · 446 Bildschirme
崖の下は月輪川で、谷の奥所に月輪関白兼実の墓があるという。墓といえば、ついそこの眉にせまる阿弥陀ヶ峯の下あたりは墓や御陵だらけだった。鳥部野が近いのである。
しかし。
春霞の彼方、洛内の屋根は一望だった。加茂川は上から下まで、五条総門は六波羅ノ庁の群舎の森まで。
高氏には、これが気に入ったらしい。――洛中にみちている鎌倉の軍馬、その中にある新朝廷の皇居。そして、六波羅の木々の底には、先帝後醍醐の板屋の獄。
「…………」
彼はこの大観につい見とれる。
これは“時勢の縮図”だ、天下の俯瞰図だ。――この谷には鶯が多かったが、彼の耳には鶯の声もない。徐々にちかづいて来る夢の跫音だけがあった。
「殿。……おう、そこの欄に肱をおかけなされていては、お危のうございます。欄も腐っておりましょうに」
「十郎か。何ごとだ」
「ただ今、異な女性が、折入ってお目にかかりたいと、訪ねておいでなされましたが」
「女が」
高氏は、とむねをつかれた。
さきごろここへ宿所入りの日、道ばたで、ふと見かけたあの子連れの女性が、彼の血をすぐ騒がせていたのだった。
「……女とは、子連れか」
「いや、お子は連れておりませなんだ」