Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(三)
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記(三) (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 222.108 Zeichen · 446 Bildschirme
一途に、三河の一色村へと焦心ってはいるものの、一色党の人々の疑惑を何と解いたらいいか、その口実の見つからないうちは、不知哉丸とも、母として会えない心地がするのだった。
「そうだった……。なぜ思いつかずにいたのだろう」
ぼやと星屑の空しか彼女には見えていない。
夜気の墨に吹かれさまよう姿は、ふと何かを、心あてに抱いたようだった。
「女は女どうし……」
小松谷にいる草心尼なら頼って行けぬこともないと思う。覚一というお子もあるひと、きっと、この胸を聞いてはくれよう。
いや、ひょっとしたら、不知哉丸も、なおまだそこに置かれていて、そこでは逆に、この身の行方を案じたり探しぬいていることやらもわからない。――もし、そうあってくれたらと、藤夜叉は、祈りへ向って走るように、東山のすそをひたむきに、いつか六波羅近くへ来ていた。
ところが、大宮、車大路、いずこも道は遮断され、庁の総曲輪の辺は、たくさんな遠篝で、さながら火焔の府に見えた。
「行けない」
はたと、彼女は惑った。
先ごろから、どこかで戦が起っているという風聞は、耳にしてない事でもない。けれど藤夜叉の胸には風の音ぐらいにしかそれは吹き抜けていなかったのだ。