Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(五)
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記(五) (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 252.330 Zeichen · 505 Bildschirme
「御意にござりまする」
「茫として、遠いむかしのようだし、つい昨日のようでもある」
「…………」
正成は、ご感激にこたえて、何か言上せねばと思い、また、およろこびを述べるべきだとも知っていたが、何も口に出なかった。河内の片すみにある一土豪に過ぎぬ身が、伝奏も経ず、じきじきなお答えなどはどうだろうか。そんなためらいも交じっているまに、後醍醐のほうは、溢れる感激のままに叡慮余すなく吐いて。
「兵衛。そのほうの終始変らない忠誠は忘れはおかぬぞ。そのほうなくば、今日の還幸は見ることもできなかったろう。回天の業も夢に終っていたかもしれぬ」
「…………」
正成の顔が、地を濡らしているふうだった。その破れ烏帽子が、ふるえて見えた。
後醍醐は、凝視のまま、ここで彼へも他の武将なみに、よく仰っしゃることを、仰っしゃった。
「いずれ恩賞は望みにまかすぞ。沙汰を待て」と。
次に。供奉の公卿へむかって、
「兵衛の勢は、列の先に立たせ、都入りの前陣を勤めさすがよい」
とも直命された。
正成は、面目をほどこした。恩賞そのことよりも、彼には、その直命が、ありがたかった。千早百日の苦闘も今一瞬にむくわれた思いがしていた。