Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(五)
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記(五) (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 252.330 Zeichen · 505 Bildschirme
彼の妻――北の方――は妊娠っていた。
その局の方でも、かなきり声や悲鳴がきこえる。公宗は胸を八ツ裂きにされつつ呵責の矢来の中にいるようだった。だが、彼のまわりは依然、人もない空間のままである。
逃げる者はとたんに逃げ、覚悟の者はせつなに斬って出たのらしい。邸内に匿われていた北条残党の者どもはいまをさいごと暴れまわって太刀に火を降らしているものとおもわれる。が、そのすさまじい呶号もほんの一瞬だった。われに返ると、公宗の背後と両わきには、三名の将がつッ立っていた。そのうしろにも追捕の兵がひしひしと見えた。
「…………」
公宗には、ひとりの将の言ったことが、はっきり意識にとまらなかった。
血は凍ッてしまっている。うつろな眸が三名の将を仰に見た。その顔に覚えはある。――中院ノ中将定平、結城ノ判官親光、伯耆守長年なのだ。――「大納言どの、お立ちなさい。勅宣の御使です」と、言っているのらしい。
公宗は、
「……妻ばかりは」
と、いおうとした。
声が出ない。逆に、あらあらしい一喝を聞き、彼の身は鞠のようにくくられていた。初めて、声が唇から出た。
「定平っ。日ごろのよしみを思うて、妻の身は助けてくれ。