Japanische Klassiker mit Furigana
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しほんたいへいき
私本太平記(五)
吉川 英治
Lesen Sie 私本太平記(五) (しほんたいへいき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 252.330 Zeichen · 505 Bildschirme
楠木勢だけの一手じゃった」
と、熱狂的にほめたたえた。沸騰すると、民衆は、事実以上にも、誇張したがる。
しかし、野に充つるそんな声に、正成は酔ったであろうか。自身の武勲に驕ったろうか。どんな史に徴しても、このときの正成に、それらしき風はみじん見あたらない。
もしその正成に、他日への野望があり、また当初の“笠置出仕”の腹が、栄達への野心であったら、それへ登る階梯は、
今こそ目の前
に、あったといえよう。――孤塁千早を開いて、百七十日ぶりで降りてきた菊水の旗の前には、数千の降兵と、また和泉、紀伊、摂津の各地から呼応してきた味方とに、
「たのもしい楠木殿」
「わが多聞兵衛どの」
と、それこそ、時の氏神の顕現のように、囲繞されていたのである。――だから今なら、それら参陣の武族へ、彼がどんな高い床几から尊大な一顧をくれても、人々はみな彼を大将と仰いで、行く末までの随身も惜しまなかったに相違ない。
ところが、彼には、その気がなかった。そしてそのことが後には逆に、野心満々な時人からは、物足らない人と見られて、やがては彼から人の離れて行く、一因にもなっていたかと思われる。