Japanische Klassiker mit Furigana
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ちちぶのおもいで
秩父のおもいで
木暮 理太郎
Lesen Sie 秩父のおもいで (ちちぶのおもいで) von 木暮 理太郎 (こぐれりたろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 3.234 Zeichen · 7 Bildschirme
ここで誰か一言ものを云えば、二人の目からは涙が流れたであろう、恐らく。
この時程私は渓川から強い刺戟を受けたことはない。この時程私は渓川に対して限りなき愛着の念を抱いたことはない。
ふと私の思いは二十年の昔に遡って、郡内から小仏峠を踰えた時の光景がまざまざと眼底に浮んで来た。やはり五月のよく晴れた日であった。桐の花が真盛りで、樹の下には落ちた花を拾って、同じ木の大きな葉に盛りながら、ままごと遊びに余念のない少女の群もあった。畑の中の一本の大きな花桐には、測量の為であろう紅白の旗が竿の先に翻っていた。路並の茅葺屋根には、棟に鳶尾か菁莪らしいものが青々と茂って花が咲いていた。其蔭で猫が昼寝していることなどもあった。人通りの少い路の上を、低く燕がすういと飛んで来てはひらりと返して行く。賑やかな梭の音に交って、歌や笑い声が洩れて来る。
これから秩父の旅が続けられるようになった。それはいつも五月で、渓を遡るか又は帰り路を渓に取った。其の間に秋の秩父を探り、冬の秩父を眺めたこともない訳ではなかったけれども、私の主たる目的ではなかった。そして私はゆかしい苔の匂いと木の香とに満ちた奥深い森林を、山肌を飾る万年雪の輝きや草原を彩る美しいお花畑が日本アルプスの特色であるように、唯一の秩父の特色であると信ずるに至ったのである