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Japanische Klassiker mit Furigana

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うつくしきつきよ

美しき月夜

宮本 百合子

Lesen Sie 美しき月夜 (うつくしきつきよ) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 9.063 Zeichen · 18 Bildschirme

Aozora Bunko

美しき月夜

宮本百合子

静かな晩である。

空気は柔かく湿って、熟しかけた林檎(りんご)からは甘酸い、酸性のかおりが快く、重く眠たい夜気の中に放散し、薄茶色の煙のような玉蜀黍(とうもろこし)の穂が澄みわたった宙に、ひっそりと影を泛べている。到るところに陰翳(いんえい)の錯綜があった。夏と秋の混り合った穏やかなどことなく淋しい景物が、今パット咲いた銀色の大花輪のような月光の下で、微かに震えながら擁(だ)き合っている。どこにも動くものがなかった。どこにもものを云う声が聴えなかった。その沈黙が一層聞えない囁きの優しさと、見えない魂の団欒(だんらん)を想わせるような夜のうちを、彼等は確かりと腕を組合いながら、幸福に家路に向っていたのである。

姪の結婚披露に招待されて、久振りで華やかなる雰囲気のうちに心から浸った彼等は、いつかあらゆる日常生活の煩しさから開放されていた。可愛くてうるさい子供達も、老母も、地平線の彼方より遠い彼方に姿を消して、亢奮に連れて甦った若さが三年前の恍惚(こうこつ)に彼等を引戻して、希望に満ち、歓喜と純潔な羞恥に赤らんだ二つの笑顔は、彼等に甘美な回想を与える。