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Japanische Klassiker mit Furigana

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うつくしきつきよ

美しき月夜

宮本 百合子

Lesen Sie 美しき月夜 (うつくしきつきよ) von 宮本 百合子 (みやもとゆりこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 9.063 Zeichen · 18 Bildschirme

Aozora Bunko

が、二三間行くか行かぬに、彼の聾(ろう)した耳を劈(つんざ)くようにシュワッ! と空気を截断して、機関車の丸い頭部が擦れ違った。と同時に、彼は轟々(ごうごう)たる車輪の響に混って何ともいえない人間の叫喚が、あたりの空気を刺しとおして空の彼方まで響きわたったような気がした。彼は急に双脚の力を失った。地面がズルッと足の下で滑った。彼は髭の疎に生えた口をパッと開くと、あらいざらいの生命を一時(いちどき)に吸いこむように息を窒(つ)めて、傍の茂みの中に転り込んだ。

一分……二分……三分……。

彼はそろそろと両膝を突いて、草の中から起き上った。そして怖じた兎のように眼を剥(む)いて恐る恐る周囲を見まわした。

月が照っている。窓々の硝子は光り、樹々が眠っている。しんかんとした夜の空気……。

「これが?」

彼は肩を窄めて、

「これが? これが死? これが? これが?」

痩せた顳※(こめかみ)をヒクヒクと痙攣(けいれん)させながら、彼はまたのび上って、そろそろとあたりを見まわした。

底本:「宮本百合子全集 第一巻」新日本出版社

1979(昭和54)年4月20日初版発行