Japanische Klassiker mit Furigana
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あぢさい
花火・来訪者 他十一篇
永井 荷風
Lesen Sie 花火・来訪者 他十一篇 (あぢさい) von 永井 荷風 (ながいかふう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 52.046 Zeichen · 104 Bildschirme
その頃には銀座界隈には、已にカフェーや喫茶店やビーヤホールや新聞縦覧所など云う名前をつけた飲食店は幾軒もあった。けれども、それ等はいずれも自分の目的には適しない。一時間ばかりも足を休めて友達とゆっくり話をしようとするには、これまでの習慣で、非常に多く物を食わねばならぬ。ビール一杯が長くて十五分間、その店のお客たる資格を作るものとすれば、一時間に対して飲めない口にもなお四杯の満を引かねばならない。しからずば何となく気が急いて、出て行けがしにされるような僻みが起って、どうしても長く腰を落ち付けている事は出来ない。
これに反して停車場内の待合所は、最も自由で最も居心地よく、些かの気兼ねもいらない無類上等のCafである。耳の遠い髪の臭い薄ぼんやりした女ボーイに、義務的のビールや紅茶を命ずる面倒もなく、一円札に対する剰銭を五分もかかって持て来るのに気をいら立てる必要もなく、這入りたい時に勝手に這入って、出たい時には勝手に出られる。自分は山の手の書斎の沈静した空気が、時には余りに切なく自分に対して、休まずに勉強しろ、早く立派なものを書け、六ヶ敷い本を読めと云うように、心を鞭打つ如く感じさせる折には、なりたけ読み易い本を手にして、この待合所の大きな皮張りの椅子に腰をかけるのであった。