Japanische Klassiker mit Furigana
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こうやのふゆ
荒野の冬
中谷 宇吉郎
Lesen Sie 荒野の冬 (こうやのふゆ) von 中谷 宇吉郎 (なかやうきちろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 4.098 Zeichen · 9 Bildschirme
何も置いてない、がらんとした寒い部屋が四つばかり並んでいた。
荷物を置いて、外へ出て見た。市街地というものの、道の両側に一並び家があるだけで、戸数からいったら、五、六十戸というところであろう。それでも驚いたことには、いろいろな雑貨商は勿論、呉服屋だの、病院だのというものまでがあった。何処から、どういう人が出て来るのかはしらないが、やはりこの荒野の彼方の何処かには、相当な人数の人々が、それぞれの人生を送っているのであろうと考えてみた。そして市街地という言葉が、或る意味では、大変ぴったりした言葉だという気がした。
少し行くと、すぐ街はずれに出た。夕方近くなって、風が落ちたので、急に周囲が物静まって来た。三月の末近い日だったもので、風が止むと、さすがに夕近い空には春の兆しの色が見えていた。冷たい淡青磁色の空も、地平線近いところは薄紫を帯びていた。しかし地の上にはまだまだ長い冬が残っていて、水温む春がいつ来るかもしれないというふうにみえた。槲の大樹らしいのが、まばらまばらに立っていて、その細い枝が網のように空に交錯しながら伸びていた。その小枝にも新しい芽の気配は感ぜられなくて、ただ梢の上に、寒い弦月がかかっているだけであった。