Japanische Klassiker mit Furigana
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きくちよしょう
菊千代抄
山本 周五郎
Lesen Sie 菊千代抄 (きくちよしょう) von 山本 周五郎 (やまもとしゅうごろう) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 36.178 Zeichen · 72 Bildschirme
……うしろでなにか叫ぶ声がした、誰か追って来るらしい。だが菊千代は眼のくらむような気持で、手綱を絞ることも轡を緊めることも思いうかばず、いま落ちるか、いまか、とただ夢中で歯をくいしばっていた。
どのくらい走ったものか、気がつくと竹中師範と半三郎とが、左右から馬を寄せてこちらに来、こちらの乗馬を挾むようにして、広い草原のなかへ追いこみ、なお狂い出ようとするのを、左右から抑え抑え、草原の端にある寺の生垣のところでようやく止めた。
半三郎はすばやく来て轡を取り鐙を押えた。彼はまっ蒼なひきつったような顔で、汗みずくになり、激しく喘いでいた。菊千代は馬から下りると、足がふらふらし、嘔きけを感じたので、そのまま枯草の上へ腰をおろした……和島や師範がしきりに詫びを云い、そこへまた遅れた学友たちが乗りつけた。
「――もういい、なんでもない」
菊千代はうるさくなって手を振った。
「――少し休むから、みんな離れて呉れ、半三郎がいればよい」
みんなはすぐには動こうとしなかった。菊千代は顔をあげて、例のない鋭い眼でかれらを睨んだ、それでようやくみんなそこを離れ、草原の中ほどへいって、馬と人とでこちらを隠すようにした。