Japanische Klassiker mit Furigana
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いっぺいそつ
蒲団・一兵卒
田山 花袋
Lesen Sie 蒲団・一兵卒 (いっぺいそつ) von 田山 花袋 (たやまかたい) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 28.948 Zeichen · 59 Bildschirme
まだあそこにいやがる。汽車もああなってはおしまいだ。ふと汽車――豊橋を発ってきた時の汽車が眼の前を通り過ぎる。停車場は国旗で埋められている。万歳の声が長く長く続く。と忽然最愛の妻の顔が眼に浮かぶ。それは門出の時の泣き顔ではなく、どうした場合であったか忘れたが心からかわいいと思った時の美しい笑い顔だ。母親がお前もうお起きよ、学校が遅くなるよと揺り起こす。かれの頭はいつか子供の時代に飛び返っている。裏の入江の船の船頭が禿頭を夕日にてかてかと光らせながら子供の一群に向かってどなっている。その子供の群れの中にかれもいた。
過去の面影と現在の苦痛不安とが、はっきりと区画を立てておりながら、しかもそれがすれすれにすりよった。銃が重い、背嚢が重い、脚が重い。腰から下は他人のようで、自分で歩いているのかいないのか、それすらはっきりとはわからぬ。
褐色の道路――砲車の轍や靴の跡や草鞋の跡が深く印したままに石のように乾いて固くなった路が前に長く通じている。こういう満州の道路にはかれはほとんど愛想をつかしてしまった。どこまで行ったらこの路はなくなるのか。どこまで行ったらこんな路は歩かなくってもよくなるのか。