Japanische Klassiker mit Furigana
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とうじゅうろうのこい
藤十郎の恋
菊池 寛
Lesen Sie 藤十郎の恋 (とうじゅうろうのこい) von 菊池 寛 (きくちかん) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 12.078 Zeichen · 25 Bildschirme
その折われらが無念は、今思い出しても、この胸が張り裂くるように、苦しゅうおじゃるわ。(こういいながら、藤十郎は座にも堪えぬげに身悶えをして見せる。が、彼の二つの瞳だけは爛々たる冷たい光を放って、女の息づかいから様子を恐ろしきまでに、見詰めている)
お梶 (やや落着いたごとく、顔を半ば上げる。一旦、蒼ざめ切ってしまった顔が、反動的にだんだん薄赤くなっている。二つの瞳は火のごとく凄じい)……。
藤十郎 (言葉だけは熱情に震えて)人妻になったそなたを、恋い慕うのは、人間の道ではないと心で強う制統しても、止まらぬは凡夫の思いじゃ。そなたの噂をきくにつけ、面影を見るにつけ、二十年のその間、そなたのことを、忘れた日はただ一日もおじゃらぬのじゃ。(彼は舞台上の演技にも、打ち勝つほどの巧みな所作を見せながら、しかも人妻をかき口説く恐怖と不安を交えながら、小鳥のごとく竦んでいる女の方に詰めよせる)が、この藤十郎も、たとい色好みといわるるとも、人妻に恋しかけるような非道なことはなすまじいと、明暮燃えさかる心を、じっと抑えて来たのじゃが、われらも今年四十五じゃ。人間の定命はもう近い。