Japanische Klassiker mit Furigana
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すぎたはるのきおく
過ぎた春の記憶
小川 未明
Lesen Sie 過ぎた春の記憶 (すぎたはるのきおく) von 小川 未明 (おがわみめい) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 5.536 Zeichen · 11 Bildschirme
落葉の匂いが、冷かに鼻に浸みた。正一は眼を上の方に向けていると円い穴は、直に青い空を円く限っている。ちょうど井戸の上は、青い空に掩われているように、他に何も見えなかった。
眼を上に向けて、もしや、鬼が来て、この中を覗きはしないかと仰いでいたけれど、誰も来て覗いて見るものもなかった。
その内に、ちらちらと星の輝くのが見え始めて来た。彼は、たとえ誰が来て、上から下を覗いても、中は真暗で見えないから見つかる気遣いはないと思っていた。
彼は、耳を澄していたけれど、何の声も聞えなかった。もう、今頃は、誰かが見付かった時分であろうと思ったが、皆んなの叫く声も聞えなかった。彼は、尚お声を潜めて、黙って、若しや鬼がこの上の辺りを通っているのではないかと思っていた。
空の色は、ますます青く冴えて、星の光りがはっきりと澄み渡って来た。
彼は、何となく心細くなったので、
「もう、いいぞ。」
と、井戸の内から叫いた。
その声は、穴の周囲に突き当って、上の方へは聞えなかったようだ。彼は、こう叫ぶと誰か来て覗きはしないかと、胸をどきどきさして竦んでいた。
自然に崩れて落ちる土の塊りが、ころころと転げて来て枯れ葉の上に落ちた。