Japanische Klassiker mit Furigana
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すぎたはるのきおく
過ぎた春の記憶
小川 未明
Lesen Sie 過ぎた春の記憶 (すぎたはるのきおく) von 小川 未明 (おがわみめい) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 5.536 Zeichen · 11 Bildschirme
彼は、出て上を覗いて見ようと思った。
正一は、足を井戸の周囲に踏みかけた。けれど手に掴まる処がなかったので、容易に上ることが出来なかった。彼は、爪で、土を崩した。而して、其処に足をかけて、やっと片手を穴の上にかけることが出来た。
こんなことをする間にも、時間は余程たって、彼は、幾たびか上りかけては、下に落ちて穴の中で、尻餅を搗いた。而して、やっと土に塗みれて、井戸の上に出て見ると、もう、誰も、空地には居らなかった。
四辺は、眠ったようにしんとして、彼は、言うにいわれない頼りない悲しい感じがした。まだ四つか五つの時分、母が使にでも行って居なくなった時分がふらふらと浮んだ。ちょうどその時のような怨めしい、やるせない思いがした。心のうちで何時の間に皆んなは帰ってしまったのだろうと怪しまれた。見渡す限り、白い夕靄がかかっている。その中に、黒い森が、ぼんやりと浮き出ている。彼方の圃には、ひょろひょろとした枯た木が立っていた。
正一は、まだ誰か、その辺に残って居りはせぬかと、彼方、此方見廻しているうちに、誰か一人、十五六歩も隔って、白い靄の中に悄然として佇んでいるものがあった。