Japanische Klassiker mit Furigana
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そらとぶあくま
酒井嘉七探偵小説選 〔論創ミステリ叢書34〕
酒井 嘉七
Lesen Sie 酒井嘉七探偵小説選 〔論創ミステリ叢書34〕 (そらとぶあくま) von 酒井 嘉七 (さかいかしち) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 13.471 Zeichen · 28 Bildschirme
と語られた言葉を思い出した。いまも初夏の雨らしく、さーッと来た。私は疲れた頭を執筆中の論文から離して、はるか彼方の小山の麓に近い緑の樹々のあたりを遠望している。清新な清々しい新緑を翫味すべき希望を抱いて窓辺に立っているのである。しかし、この辺りの天候はあくまでも常軌を逸している。さーッと音がしているかと思えばこれがいつの間にかざーッという響に変っている。そうかと思えば、こんどは、ごーッと地響きを伴ったものにまで変化して、灰色の空からは一本一本がはっきりと目に見える太い、太い無数の雨の棒になり、真白い幕になって地上を突き刺して廻る。これがいつまでもつづく。雨宿りをしている人々もこれではさぞ困るであろうと思いながらいつしか新緑を忘れる。しぶきを避けて窓をしめ、論文の最後の章を書きつづける。雨のことも、雨宿りの人達のことも、頭から消え、いつしか身体全体が原稿用紙の中にとけ込んでいる。と、ふと気づくと雨は小降りになっているが、まだ止まない。この間数十分、いや一時間も越すであろう。――ここは目を保養することすら不可能な、病者には不適当な土地らしい。
○月 ○日