Japanische Klassiker mit Furigana
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ななこ
野菊の墓
伊藤 左千夫
Lesen Sie 野菊の墓 (ななこ) von 伊藤 左千夫 (いとうさちお) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 71.271 Zeichen · 144 Bildschirme
妻の繰り言は果てしがない。自分もなぜ早く池を埋めなかったか、取り返しのつかぬあやまちであった。その悔恨はひしひし胸にこたえて、深いため息をするほかはない。
「ねいあなた、わたしがいちばん後に見た時にはだれかの大人下駄をはいていた。あの子は容易に素足にならなかったから下駄をはいて池へはいったかどうか、池のどのへんからはいったか、下駄などが池に浮いてでもいるか、あなたちょっと池を見て下さい」
妻のいうままに自分は提灯を照らして池を見た。池には竹垣をめぐらしてある。東の方の入口に木戸を作ってあるのが、いつかこわれてあけ放しになってる。ここからはいったものに違いない。せめてこの木戸でもあったらと切ない思いが胸にこみあげる。連日の雨で薄濁りの水は地平線に平行している。ただ静かに滑らかで、人ひとり殺した恐ろしい水とも見えない。幼い彼は命取らるる水とも知らず、地平と等しい水ゆえ深いとも知らずに、はいる瞬間までも笑ましき顔、愛くるしい眼に、疑いも恐れもなかったろう。自分はありありと亡き人の俤が目に浮かぶ。
梅子も出てきた、民子も出てきた。二坪にも足らない小池のまわり、七度も八度も提灯を照らし回って、くまなく見回したけれども、下駄も浮いていず、そのほか亡き人の物らしいもの何一つ見当たらない。