Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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おうがいのおもいで

鴎外の思い出

小金井 喜美子

Lesen Sie 鴎外の思い出 (おうがいのおもいで) von 小金井 喜美子 (こがねいきみこ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 127.675 Zeichen · 254 Bildschirme

Aozora Bunko

お兄様は立上って、

「わるかったね。よくそこらを荒す犬が来たから、机の上の物を手当り次第に投げたら、運わるく赤インキだった。新しい著物だと喜んでいたのに可哀そうに。」

「なに粗末の品だからいいよ。」

母は何気なくいわれました。粗末でもなかなか衣類など新調するのではありませんから、さぞ困ったと思われたでしょうが、何があるのとも仰しゃいません。兄上には遠慮していられるのです。何品でしたか、鼠色で一面に草花の模様でした。袖口だけ残して、桃色の太白二本で、広く狭く縫目を外にしてありました。

「ほととぎす殺しという所だね」と次兄のいわれましたのは、後年その話の出た時でした。それは殿の愛妾ほととぎすを憎んで、後室が菖蒲畑の傍で殺すという歌舞伎狂言でした。立っていたのでインキは流れて裏には沁みず、裁縫の器用な祖母が下前と取りかえて、工夫をして下すったので、また著られるようになりました。

兄はその時写生をしていられたのです。松に石灯籠の三つもある庭を、正面から斜面から、毛筆で半紙に幾枚も画かれたのでした。一枚は貰って置きましたが、いつの間にか見失いました。遠い昔のお話です。